公園の施設

杣の里渓流公園は、遠く南北朝時代九州に下向された後征西将軍宮良成親王の御陵墓がある大杣公園から渓流沿いの小径を一・五キロメートルほど東にはいったところにある。

面積およそ三・八ヘクタールで、この中にはソマリアン・ハウス、レストラン「ル・クレソン」など、矢部の木材をふんだんに取り入れた西欧風のしょう洒な施設が大自然の中に溶け込むようにたたずんでいる。

「杣」とは、広辞苑によれば、一、そまやま 二、そまびと 三、比叡山の別称とあり、「杣人」とは杣山を切る人、きこり、「杣山」とは杣木のある山、木を植えて材木を切り取る山 とある。矢部村は大自然に恵まれた土地で、昔から杣山でなりわいを立てた杣人の村であり、正に「杣の里」なのである。

○ソマリアン・ハウス

「ソマリアン・ハウス」は杣の里渓流公園の中央管理センターで、宿泊、研修、会議などに使える施設を持つ北欧風のおしゃれなプチ・ホテルである。約百名の宿泊ができ、露天風呂からは、きらめく星空を眺めることができる。

中央ロビーでは、黒木町出身で現在中央画壇で活躍中の吉田民尚の百号の大作が迎えてくれる。

○レストラン「ル・クレソン」

ル・クレソン

ル・クレソン

クレソンとは西洋料理にそえるセリに似たすこしからい野菜である。

木の温もりをふんだんに生かした北欧風のレストランで、矢部の四季の恵みをいっぱいに受けた山菜、ヤマメ、地鶏など豊かな自然の素材を使った創作フランス料理が、訪れる人々を満足させてくれる。

「料理は素材」これを生かしているのが、シェフ(コック長)の江田裕次である。矢部村に生まれ育った江田は、東京の一流ホテルでフランス料理を習得し、ふるさとを志向したUターン組の一人である。

「矢部村の自然の力で育った安全で新鮮な素材を生かした料理を作りたい……」そんな江田の夢を実現したのが、農薬を使わない杣の里の素材とヨーロッパの香を合わせた新しいフランス料理「ソマリアン料理」である。

○杣の大吊橋

杣の里渓流公園のステータス・シンボル。峡谷にかかる全長百五十メートル、全幅一・二メートル、最大高五十メートルの大吊橋は、型式を径間無補剛吊橋といい、体重六十キロの人間が六百人乗ったうえに、七十センチの積雪と風速五十五メートルの風が重なっても大丈夫と
杣の大吊橋

杣の大吊橋

いう設計である。橋床は厚さ三・三センチ、幅二十センチ、長さ一・三メートルの杉板に防腐加工したものを横に並べているが、中央部分ニケ所に透明なパネルをはめこみ、下が覗けるようになっている。上から覗くと自然の中に吸い込まれそうな気分になり、スリル満点である。

○クラフト・センター

自分で考え、自分の手で触れ、物を創る喜びが体験できる杣の里コミュニティ・カレッジ。陶芸工房と草木染めの工房があり、自由に創作コースを選ぶことができる。普段は専門講師が創作活動を続けており、創作された焼き物や織物は、併設の展示室に展示するとともに販売もしている。

レストラン「ル・クレソン」で使われている食器類やランチョン・マットは、このクラフト・センターで創られたものである。

○御前窯工房

御前窯工房クラフトセンター

御前窯工房

クラフトセンター

日本の伝統的なのぼり窯があり、一輪差しや食器類の小物から花びんや飾り皿など創る喜びと土の温もりを体験しながら創作を楽しむことができる。

陶工渕之上伸一は、十七歳のとき韓国の人間国宝、安東王に陶芸の手ほどきを受けたこともあり、田川市の鑑月窯の藤本享秀のもとで十一年間修業し、「自然と真正面から向かいあい、どっしりと腰を据えて土という自然の秘める可能性を追求し、杣の心をダイナミックに造形したい」と、若妻とともに定住し、この杣の里に灯った御前窯の火を育てていく覚悟の弱冠二十七歳の新進気鋭の陶工である。

なお、師の藤本享秀は、矢部村役場ロビーの陶板「杣の夜明け」と、中央公民館ロビーの「八女津媛と良成親王」の作者である。

○杣のけやき染工房

ロッジ杣のけやき染工房

ロッジ

杣のけやき染工房

杣の里の豊かな自然が生んだ桜やけやき、藍茜などの柔らかくあたたかい色あいをもった草木染を創る。

ここでは染色から紡ぎ、織りまで、宮原久美子が明るく親切に応対してくれる。

宮原は、東京のOL時代にたまたま出会った織りの魅力にとりつかれ会杜を辞めて、島根県安来で出雲織の技法を修得。矢部に永住して草木染の美を追求している。

草木染は化学染料とは違った独特の色あいを出す。けやきを使っても、季節や気侯によって微妙に色調が変わる意外性が出るのが草木染の魅力である。山へ分け入れば、染の材料となる草木は自然のままにふんだんに手にいるのである。

「素朴な色あいと心和む風合い……。草木染の温もりを大切にしたい」と草木染の織りで自然のやすらぎを意欲的に表現している。

村で活動する婦人グループ「深山染の会」と共同で新しい作品の創作に余念がない。

○遊歩道「せせらぎの小径」

釈迦、御前岳から流れる水は、御側川の源流となり矢部川にそそぐ。御側から源流をさかのぼる約一キロメートルの森林浴コースが「せせらぎの小径」である。

四季折々の可憐な野の花や蝶、小鳥のさえずり、河鹿の合唱、せせらぎの音を聞きながら歩くと、心も体も完全にリフレッシュできる。また昆虫採集や渓流ヤマメ釣り、バード・ウォッチングなど子どもにとっても楽しみながら自然との接触を体験できる。

杣の里渓流公園から林道をのぼれば、約二時間で釈迦ケ岳(一二三一メートル)に着く。途中には八ツ滝の景観があり、釈迦山頂に立つと、九重連山、阿蘇の噴煙、雲仙岳、由布岳、英彦山など一望に見渡される。

釈迦岳から尾根伝いにブナの原生林の中を登り下りして約一時間、御前(権現)岳(一二〇九メートル)に至る。これから急坂を真下に下れば、もとの渓流杣の里公園に出るのである。軽登山には格好のコースで、山を愛する人たちの姿に道々で出会う。

渓流公園に向かう途中、御側の三叉路を左に折れれば、五百メートルくらいで後征西将軍宮良成親王の御霊の眠る御側御陵墓に詣でることができる。うっそうと繁ったもみやけやきの大木がおおう玉垣の中に御霊はひっそりと鎮まっていて、おのずからこうべを垂れるような聖域である。周辺は公園になっていて、春の桜やつつじ、しゃくなげ、夏の新緑、秋の紅葉を求める人々でにぎやかになる。

渓流公園バスの出発地、御側の駐車場から、すぐ右手の橋を渡って杉の林の中を約一キロメートル行くと「足掛地蔵尊」がある。昔、役小角(えんのおづの)という修験者が弟子に授けた秘法で、足腰の悪い人を助けたというところから、今でも足の不自由な人のお参りが絶えない。お堂の側には四、五十メートルの滝があり、滝壷で行をとる人もいる。滝と渓流うっそうとした木立のたたずまいは神秘的で、参詣する人々に敬虔な気持をいだかせる。渓流の途中に今は矢部村でも少なくなったカツラの大木がある。

○杣人の家

杣人の家

杣人の家(内部)

杣人の家

国道四四二号を上り、柴庵の手前から左に折れ、約一キロメートル中間郷に「杣人の家」が ある。

矢部村ミセス・アルペン味の会のメンバーがふるさと矢部のなつかしい味を再び呼びもどそうと地域の活性化のひとつとして、昭和六十二年に開設されたものである。

杣人の家は、安政五年(一八五八)に建てられた古民家の保存と地域振興の拠点づくりの一環として改修されたもので、一尺二寸(約三十六センチ)の大黒柱、三尺三寸(約一メートル)の二段重ねの梁など当時の民家としては、豪壮で先人の気骨がしのばれる民俗館である。

山の幸を囲炉裏で囲み、野山にみなぎる野鳥のさえずりを聞きながらアルペン料理を口にするとき、しみじみと心の安らぎを覚えるのである。

主な料理は「公卿さん懐石」。これは地鶏の刺身、ヤマメの串焼きや野山の山菜などを活かした十四品のフル・コースである。また、矢部ならではの「そばきり」は、ソバのつなぎに卵だけを使った手打ちソバで、杣の地鶏でたっぷりとったダシ、柚子こしょうをピリッと効かせた味は、正にふるさとの味である。

「だこ汁」は奥八女の自然をたっぷりと煮込んだ椎茸とたけの子、わらびを具に入れ、地鶏のダシで自然の味覚を野趣豊かに仕上げた素朴な郷土料理である。

杣人の家では、カニ漬けや柚子こしょう、手づくりコンニャク、深山合わせ味噌など杣の里の特産品として販売もしている。

交流客の動向

○会員加入状況

平成二年三月現在の会員数は、個人会員四二九〇(一七一六人)法人会員三八〇(一一四〇人)となっており、計画目標を下回る結果となっている。

個人会員の地域別加入状況についてみると、福岡市を中心に県北地区が全体の八三パーセントを占めている。九州以外では、山口、神奈川、東京、千葉、広島、兵庫、大阪、埼玉からの加入である。これらの遠隔地からの加入者はマス・コミ関係者、学者など何らかの形で矢部村とのかかわりを持つ者の加入となっている。

○利用者の状況

入園者数は平成二年三月末現在で延べ二一、七九二人となっており、会員加入状況でもわかるように、県北地区からの来園が大半を占めている。また来園者の利用状況をみてみると、レストラン利用者が四八パーセント、売店二十七パーセント、休憩、研修を含んだソマリアン・ハウス利用者十九パーセント、陶芸、織染交流一・六パーセント、渓流釣り一・九パーセントで来園者のふるさと志向と地域特産物への関心の高さが顕著にあらわれている。