ふるさと創生の取り組み

村の活性化、創生のためには、それを推進する入れもの即ち施設などのハード面とその中に何を入れるかのソフト面の両輪が必要である。

ハード面としては、既に小学校、役場庁舎、中央公民館、村民体育館、渓流杣の里公園などが整備されたので、その中に何を入れるかソフト面の施策が目下推進されている。

村としては、村政の基盤に三つの柱を立てている。「産業文化の交流」「福祉、高齢化社会への対応」「生涯学習の推進」である。
栗原小巻さん

栗原小巻さん

人生八十年といわれる今からの時代を健康な心身と生き甲斐をもって逞しく生き抜くためには、自ら求めて学ぶ「自己指導力」「自己教育力」を身に付ける必要がある。いわゆる生涯学習である。

そこで、本村では平成元年度文部省の「生涯学習推進モデル地域」の指定を受け、「生涯学習振興文化交流基金」を設けて、行政、産業経済、文化、教育のあらゆる社会機能を総合的に組み合わせて積極的に取り組んでいる。

役場職員の研修、高齢者大学と大学院の開講、婦人会、青年団、老人クラブ、PTA、子ども会などの諸団体の交流、小中三校合同の道徳教育推進、村を挙げての各種イベントなどを通して自己教育力の向上に努めるとともに、村民と他地域との交流を深めることによって、村を活力あるものにしようと努力している。

また、福祉、高齢化杜会への対応策として「福祉の里」づくり構想が進められている。

広域基幹林道「矢部線」の開通

福岡県の林業を代表する八女東部は、森林の多面的な機能の発揮が期待される広域な森林地 帯である。矢部線の利用区域内には面積にして 千百八十四ヘクタール、蓄積二十九万九千立方メートルの森林資源を有しており、林業の浮揚、合理的経営及び森林の適正な菅理のための基盤整備と沿線に散在する集落を結ぶ生活基盤としての林道の開さくが多年にわたって要望されていた。

昭和四十九年度から奥八女線の着工が始まり昭和六十年度に完成した。

さらに、昭和六十年度から起点を完成した奥八女線終点附近にとり、北矢部の国道四四二号を結ぶ十四キロメートルの矢部線の開削に着手し、六年の歳月と十七億三千万円の事業費を投じて平成二年度に完成し、盛大な開通式が挙行された。
国体炬火採火地に選ばれる 広域基幹林道「矢部線」記念碑

国体炬火採火地に選ばれる

広域基幹林道「矢部線」記念碑


これに接続する北矢部線(二十・四キロメートル)並びに星野線(二四・七キロメートル)の開設も着手されており、この広域基幹林道の全線開通によって、八女林業地域全域にわたる林業生産活動に寄与することは勿論、森林機能の強化、森林の総合利用、地域産業の活性化、さらには生活道路網としても大きく貢献することが期待されている。

「とび梅」国体炬火採火地となる

「ときめき、出会い、みなぎる力」をスローガンに掲げて第四十五回国民体育大会福岡大会が、天皇・皇后両陛下の御臨席のもと、平成二年十月二十一日開会され、六日間の日程で無事成功裡に幕を閉じたのである。

それに先立ち、矢部村は「大地にみなぎる力の火」として県下の八つの炬火採火地のひとつに選ばれた。

その栄誉に浴した矢部村では「とび梅国体」の成功を期して、十月十一日県下最高峰の釈迦岳山頂において予備採火を行った。夜明けとともに八女津媛神の見守る中、四人の若者が古式ゆかしい火鑚(ひき)り方式によって採火したのである。

続いて十月十四日、前夜祭を村民体育館において村を挙げて盛大に挙行した。開会式につづいて婦人会の踊り、矢部保育園児の鼓笛、小中学生による表現活動と合唱、そして九州女子高校ダンス部員による創作ダンスの模範演技で前夜祭の雰囲気をいやがうえにも盛り上げ、感動のうちに終わった。

明くれば十月十五日、秋晴れのもと杣の里渓流公園において炬火採火式及び出発式が挙行され、小中学生、青年団で組成する炬火リレー隊によって矢部村を縦走し、次の中継地黒木町に無事引き継がれたのである。

「二十一世紀への村づくりを考える」シンポジウム

第4回村を考えるシンポジウム

第4回村を考えるシンポジウム

村づくりは人づくりと言われて久しい。人づくりは一朝一夕で出来るものではないだけにハード(施設)面が先行しがちであるが、ソフト(人づくり)の面も同時に進行することが必要である。

矢部村は過疎化、高齢化に直面し、村の主要産業である農林業は低迷して厳しい現実にさらされている。

その中で、村は学校、役場庁舎、中央公民館、村民体育館、杣の里渓流公園の建設とハード面の施設は着々と整備されてきた。

こうした施設をよりどころとして、いかに人づくりをするか、いかにして村をおこし、いかにして生き甲斐のある豊かな村づくりをするかソフト面の充実が今後の大きな課題である。

村おこしは一人ひとりの意識改革から始めなければならない。そのためには、村民が学習をとおして村や地域のよさを発見して、どう村おこしにかかわるかが大切であると考える。

そこで年一回以上、村おこしを志すリーダーをはじめ村民が一堂に会し、討論や提言をとおしていかに村づくりにかかわることができるかをテーマにかかげ、矢部村と福祉の里づくり推進協議会や矢部村生涯学習推進会議などの共催で「二十一世紀への村づくりを考えるシンポジウム」を昭和六十三年から始め、今回で第四回目を数える。

広島県立大学助教授徳野貞雄先生や山口大学助教授小谷典子先生をはじめ専門家の診断や提言と矢部出身の劇作家栗原一登先生、農民作家山下惣一氏、女優栗原小巻さんなど日本を代表する特別ゲストを招いたりして、毎回充実したシンポジウムが開催されている。

  第一回シンポジウム

   昭和六十二年七月二十九日

第一回目は、徳野先生の指導のもとに、村内の有志があつまって、村おこしの施策についておたがいの考えを出しあって、今後のあり方を模索した。

  第二回シンポジウム

   平成元年十二月七日
  テーマ「村に生きる私たちの生き方」
   特別講演
  「わが国の農業事情と農山村の生き方」  農民作家 山下惣一氏
  「ふるさとの村に望むもの」     名誉村民・劇作家 栗原一登氏

  第三回シンポジウム

   平成二年二月五日
  テーマ「今だからこそ考えよう!!みどり豊かな人情・風土の村をいかに創るか」

演劇界において幅広く活躍されている国際女優、栗原小巻さんを迎えての特別講演をメインにして、交流、生涯学習、福祉の三部門に分かれて、テーマ毎にユニークな提言と意見交換が行われた。

栗原小巻さんは、経済効果を優先させた結果かえって村の荒廃を招いた島の例をあげて「私の心のふるさと矢部村がそうならないで欲しい……」とふるさとへの期待と望みを、柔らかな語り口で切々と訴え、参加者に深い感銘と共感を与えた。またすばらしい詩の朗読とシヤンソンを披露して会を盛り上げ、盛会裡に幕を閉じたのである。

  第四回シンポジウム

 一五〇〇分闘論会   テーマ「あなたはどれだけ村を地域を知っていますか。そしてどれだけ   愛していますか」   村への激励講演    「夢をおこせ、ふるさとの未来へ」 名誉村民・劇作家 栗原一登氏   村の診断講演    「農業経営、あすへの情報源は」  有限会社愛蘭杜長 吉村芳則氏   ライブ・コンサート シンガ・ソング・ライター 岩切みきよし氏                 一五〇〇分闘論会&福祉部門     基調提案 山口大学助教授 小谷典子氏   テーマ「高齢者も若者も安心して住める村づくりは」「いずれあなたも   老人に、その時あなたは」&交流部門     基調提案           広島県立大学助教授 徳野貞雄氏   テーマ「交流で村が活性化できるか」「観光と交流はどう違うか」   &生涯学習部門     基調提案              長崎大学教授 猪山勝利氏   テーマ「生涯学習でメシが食えるか」「地域に根づく子どもの教育と   大人の学習は」&総括闘論会   テーマ「生きがいのある村づくり」「あなたは二十五時間闘えますか」   「あなたは言う気(勇気)を持っていますか」

福岡県地域振興課地域計画長 伊藤信勝氏(前矢部村助役)をコーディネイターとして各パートの提言者によるパネルディスカッションが熱っぽく展開され、一五〇〇分間の二日間にわたる第四回シンポジウムが多くの収穫をあげて、盛会裡に幕を閉じたのである。

ビデオ「明日に生きる杣の里矢部村」の作成

平成二年度、村は「明日に生きる杣の里矢部村」と題して、三十分間のビデオを作製した。

自然・歴史・文化など矢部村のなりたちが一目で理解できるように作製されている。

村落の集会や来村者に液晶ビジョンによって紹介し、矢部村の理解の一助にしている。

緑ゆたかなオアシスの里へ

村はあざやかな緑に包まれ、山脈の里にすこやかな息づかいを見せている。過密、一極集中、ビル群の人工的なハイテクの都会生活に疲れた人びとは、自然を求めいこいのひとときを得ようと秘境”杣の里”を訪れるのである。

村は過疎、高齢化、農林業の現況を見るときに、さまざまな課題にともすると重苦しく未来を見がちであるが、村の存在価値に今こそ新しい照明をあてなければならない。

五千人の人口が二千人に減少したのが問題ではない。問題は村びと二千人のひとりひとりが村おこしのクリエーター、コーディネーターになれるかどうかである。ここに村独自の生涯学習の推進のカギがある。

自然と郷土を護り育ててきた今日までの先達の歩みと伝統を受けつぎ、未来へゆずり渡せるような産業、文化そして精神を今こそたしかにしなければならない時であろう。

都会に住むひとが村にオアシスを求めるならば、われわれ村びと自体がオアシスに生きる根源を自覚しなければならない。